ラグビール・シンはインドのロバート・フランクか?

Homage to Mr. Singh

ラグビール・シン(Raghubir Singh)という優れたスナップシューターがいることを知ったのは、先日このブログで紹介したJoel Meyerowitzの著書『Bystander』に掲載されている彼のスナップを見た時だった。

 

その一枚の写真の持つグルーブ感にノックアウトされ、こんなすごいスナップを撮る写真家がインドにはいるのかと思った。実際には彼(ラグビール・シン)がインド系アメリカ人(生まれ育ちはインド)だと知ったのはそのずっと後なんだけれど。『Bystander』のその一枚の写真が、地球上で観測された、最も勢いがあり、最もワケの分からないスナップであるかもしれないという可能性は、拭いきれないということは

まったくもって確かだった。

 

その一枚の写真は「説明できな」かった。この「説明できない」何ものかが起こっている真っただ中で、それが西洋ではないことはわかるけれど、いったい何処なのか、このエキゾチックで、映画みたいで、それでまた日常の風景が写っていた。

 

このブログを書く為に彼のことを調べてみたら、彼はライフで仕事をしていたことのあるドキュメント写真家で、70年代からカラーを使って写真を撮っていたカラー写真家の先駆けであるということがわかったのだが、ラグビール・シンという偉大なスナップシューターの前では、そういった細かいことはどうでも良いような気がする(実際はどうでも良くないのが写真の世界の寂しさなんだけど)。

 

手もとにある彼の写真集『Bombay』のページを開くと、そこには、何気ないボンベイ(ムンバイ?)の日常の風景、待ち行く人々、市街地、郊外、工場、お祭り、何でもあれの世界が再現されている。その再現のされ方が、ちょっと皮肉っぽく、結構エキゾチックなので、インドを知らない私は勝手なインド像(インド象じゃないですよ)を作り上げちゃって、ラグビール・シンはまったくもって困ったドキュメンタリー作家であるなと思ってしまう。

 

かれの写真はどこか技巧的な匂いのするものも多く、写り込みや、窓枠、書き割りなどを多用して、ちょっと鼻につく部分もあるにはある。けれども、どの写真もたいした説明書きがないまま写真集の中に放り出され(キャプションはついてますけど)、それぞれがなんのストーリーも提示できないながらも、時々ドラマチックで、かなりエキゾチックで、嘘っぽくて、「アァ、ラグビール・シンに一杯食わされてるな」と感じさせられながらも、気づいたらすっかりボンベイの街を楽しませてくれる(僕、インドについて何も知らないからかも)。

 

時々、どうでも良いような写真も挟まれてるので、その部分は読者へ向けてのサービス(一応ドキュメンタリーの体裁を整える為の)なのかもしれませんけど。この人の写真が本気を見せた時のグルーブ感はすごい!!まあいっぺんご覧ください。

 

そんな、ラグビール・シンの写真集、残念ながら何冊かは絶版になっているんだけど、初めて見るなら断然『Bombay』がお勧め。『ガンジス』ってやつが、邦訳も出てて一番手に入りやすいんだけど、お説教臭くてつまんないからおよしなさい(インドの風情を味わいたいなら良いですけど)。『Bystander』に載ってたれいの一枚も、この『Bombay』の97ページ目に載ってます。

 

手に入るんだったら、他にもラグビール・シンの写真集を見てみたいんだけれども、私の手もとにはこの『Bombay』とあと数冊しかないので、残念です。どうか再版してください。

 

彼の作品はホームページからも見れますよ。

 

http://www.raghubirsingh.com/index.htm

 

でも、写真家を助けると思って、写真集を一冊買ってみても良いでしょう。

 

彼の写真見てみたら、どうぞ感想を聞かせてください!!