Tri-X。写真作品の制作において長年の間スタンダードとされ続け、多くの名作を残してきた。特に、スナップショットにおいては、標準か広角レンズをつけたライカにTri-Xの組み合わせを「王道」と呼んで差し支えないだろう。
撮影機材は、ライカ以外にも色々な選択肢があるだろう。それがニコンの一眼レフであれ、ハッセルブラッドであったり、ディアドルフであっても構わない。制作者のスタイルや、撮影されるシーンで選択されるカメラもレンズも異なるだろう。しかし、モノクロフィルムで作品を撮る者にとって、Tri-X以外のフィルム以外の選択は「あえて」それを選ばない限りは無いといえるかもしれない。
かく言う私も、学生の頃はずっとフジのNeopan Presto 400で撮り続けていた。プレスト400と2倍希釈のスーパープロドールで6分〜7分という現像データでずっと撮り続けてきた。その組み合わせでおそらく100フィート缶100個くらいは撮影した。
これは、一見おびただしいフィルムの量に思えるかもしれないけれども、25ミリの映画を撮った場合、わずか2時間程も撮れない量である。写真の使うフィルムの量なんて映画に比べたら微々たるものだ。だからウィノグランドくらい連射しても、映画を撮ってると思えばフィルムなんて全然もったいなくない。
話がそれてしまった。何故ネオパンプレストでプロドールで撮り続けていたかというと、純粋にそれが一番安い選択だったからだ。プレストはその頃100フィート缶で2,650円程で買えた。その頃トライXは100フィート3,500円程だった。D−76はそんなに高くはなかったけれど、5リットル(使用液10リットル)500円のスーパープロドールに比べたら割高だった。けれども、いつもトライエックスに憧れていた。フィルムといえばコダックである。
ウィノグランドも、フランクも、田中長徳も、金村先生もトライXである。だから、社会人になったらトライエックスを使おうと心に決めていた。悲しいことに社会人になってトライエックスを使えるようになって何年も経たないうちに、トライエックスは1000円ばかり値上げされた。これはお財布に随分響いたのだけれども、同時期にプレストの100フィートは製造中止になってしまい、コダックだけが100フィート缶の選択肢となった。今はケントメアとかイルフォードとかも100フィート缶もあるみたいだけど、ああいうフィルムは使ったことが無いからわからない。それで、私はトライエックス一辺倒だ。
トライエックスの何が良いかというと、コントラストがはっきりしているところだ、特に富士に比べて暗い場所のコントラストが扱いやすい。これは使ってる引伸し機とかにもよるかもしれないけれど、富士では黒くつぶれてしまうかどうかの弱いネガはどれだけ頑張っても全体的にヌメーッと暗くなってしまうけれど、トライエックスは暗い中でも、一部でも明るい場所が会ったらそこの光をしっかり捉えてくれる。これはスナップを撮る私たちに優しい。欠点といえば、ちょっと露出をオーバーにするとプリントが固くなってしまうことだけれど、まあ、その辺はマルチグレード印画紙の今日それほど問題にはならないかもしれない。(D−76を2倍希釈、10分の場合ですが)
シノゴから23ミリまで全てフィルムはトライエックスで統一していたのですが、シノゴはさすがにお金が続かなくなってシーガルの激安フィルムなんかも使ってみてますが、現像データの管理とか、プリントの作りやすさ、を考えるとTri-Xにまさるフィルムは無いからまた戻したいと思っています。
それで、ここからはコダックさんにお願いなんだけれど、どんなことが有ってもトライエックスを無くさないで欲しい。トライエックスが無くなってしまったら、全世界のフィルムカメラの資源がゴミになってしまうから。大判カメラやライカ等、今でも現役で使える優れたフィルムカメラが沢山有るのにトライエックスが無くなってしまっては全てがむなしくなってしまう。
もし、万が一トライエックスを生産中止にしようということになったら、どこか良心的な写真感材メーカーにトライエックスの技術を売ってでも、生産を続けて欲しい。でも、できるならコダックに作り続けてもらいたい。私たちはKODAKという名前の「安心」を買っているのだから。フィルムカメラってデジカメと違って「安心」がとても大きな意味を持つ。デジカメだったら写ってるかどうかすぐわかるし、RAWデータが有れば後でなんとかできなくもない。けれど、フィルムは現像してプリントを作るまで安心できない。だから、私たちはコダックという名前の安心を買っているのです。
ホントはTRI-X以外にも、写真関連商品で無くなっては困るものが沢山有る。オリエンタルの印画紙と、フジの引き延ばしレンズ。ホントはエルニッコールが好きだったのだけど、こうなってしまってはしょうがない。ニコンにはマニュアル一眼レフを造り続けて欲しい。ニコンは私が使った中で最もアフターサービスが優れているカメラだから。あと、カロンの詰め替え用パトローネも造り続けて欲しかった。
化学繊維の技術・品質が発達しても、ウールやシルクの良さは残るように、写真もフィルム、モノクロフィルムの良さを残すことは可能であろう。だからTri-Xはお願いだから残してください。将来金持ちになったら湯水のようにトライエックスを使わせてもらいますので、よろしくお願い申し上げます。
http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/professional/index.shtml
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