金のかかる愛人。Kodak Tri-X値上げについて。

先日、コダックのトライエックスについて書きましたけれど、コダック7月1日からフィルム値上げするみたいです。

 

私の使っているトライエックスも、ヨドバシではブローニーが一本440円(140円の値上げ)、100フィート缶が5900円(1400円の値上げ)になるらしいです。今の1.5倍位の値段になっちゃうそうです。

 

確かに、トライエックスは良いフィルムなので、今まで使ってきました。学生の頃からTri-Xは憧れのフィルムで、自分で稼ぐようになったらフィルムは全てトライエックスに揃えることを心に誓ってました。

100フィート缶なんて、私の学生の頃は3500円で、富士のプレスト400が2600円で、価格に負けてずっと富士のフィルムを使っていました。社会人になって、やっとトライエックスが買えるようになったら、4500円に値上げされてましたね。ショックでした。

 

今回の値上げは、恐ろしく大幅な値上げです。

まあ、生産中止になるわけではないのだけが心の支えですけれども、それでも、この値上げで写真愛好家のフィルム離れは進むでしょう。今までモノクロで撮っていた方々も、ついにデジタルに切り替えるなんてことになるでしょう。

 

そうすると、さらにフィルムが売れなくなって、フィルムの消費量が少なくなり、フィルムの生産量も少なくなり、それで、また値上げなんてことになるでしょう。

 

フィルムが、高価になって、フィルムカメラで写真を撮ることが単なる高価な遊びになってしまったら、これまで100年以上にわたり遺されてきたフィルムカメラ遺産が、全てゴミになってしまいます。これは、とても悲しいことで、ライカがいかに優れたカメラだったとしても、ディアドルフがいかにステキなカメラだったとしても、フィルムをケチって写真を撮らなければならなくなったら、只のゴミです。ライカなんて、あれほどフィルムに像を焼き付けるのに優れたカメラなのに、フィルムが使えなくなったら只のゴミです。夜な夜なライカを眺めて、磨いてみたりしても、もう、それはなんの価値もないものになってしまうのです。

 

機械時計と小型カメラは、共に最も発達した精密機械のイコンとも言えます。歯車とバネによって形成された、力学のラビリンス。けれども、今まで仲良く胸を張っていたこの2者の間に大きな溝がうまれます。カメラが、王者の座から転落するのです。機械時計は永遠に時を刻める有用な精密機械であり続けますが、カメラはもう、用を為さない空しい存在となるのです。不能の機械。メカニカルカメラはこの世における存在意義を失うのです。

 

フィルムに反転した像が焼き付けられ、それを印画紙に反転させて焼き付ける、という写真のあり方は、もう、なんの意味も持たなくなってしまうのです。

 

そして、3年にいっぺん買い替えないと時代遅れになるだけでなく、使えなくなってしまうデジカメでのみ写真を撮ることができる世の中になるのです。3年でお役御免になるデジカメにより撮影された画像は、同じく約3年で時代遅れなデータとなるのです。そうして、この世界から古き良き写真なんてものは無くなってしまい、新しい写真、新しいカメラすら、なんの価値もなくなるのです。

 

これから、私たちが手にすることのできるカメラは、全てゴミです。フィルムが手に入らなくなったフィルムカメラ、3年で確実にゴミになるデジタルカメラ。どっちにしてもゴミです。しかも、あろう事か、この事象は今日まで100年以上写真という文化を牽引し続けてきたKodak社によって下された判決なのです。

 

コダックはついに写真を見放そうとしています。

Kodakがフィルムを生産しなくなったその日、カメラの150年以上に渡る歴史が幕を下ろします。