フォトジェニックであることを恐れない。Christopher Thomas

今日私のもとにアマゾンから一冊の素晴らしい写真集が届いたので、紹介したい。実際の写真のプリントは見たことは無いけれど、写真集の印刷のクオリティーも高く、とてもお買い得な写真集であることは間違いない。

 

その前に近況を少々。

 

最近転職したのだけれど、今は試用期間ということもありなんだかとても落ち着かない。試用期間でクビになってしまったらどうしよう。せっかく夢にまで見るような会社に就職できたのに。だからクビになんないように頑張っているのですが、このところあんまり体力もないので、無理をしないように心がけないといけません。その辺のさじ加減が大変です。でも、世の中の同世代の方々は皆さんバリバリ働いているのだから私も頑張らなきゃ。

それで、まあ何事もさじ加減が重要なのですが、本日紹介する写真集はそのさじ加減が成功している一例です。

 

まあとりあえず下記URLから"New York Sleeps"を見てみて下さい。

 

http://www.christopher-thomas.de/

 

これは、リンホフテヒニカでポラのフィルムを使って撮影された写真群とのことなのですが、ポラって美しいですね。現像ムラすら作品の中に取入れているあたりとか、たまらないですね。私はポラロイドは使ったこと無いので、よくわかりませんが、ポラロイドのせいなのか、もともとのプリントのしかたがこうなのか、印刷がこうなのかわかりませんが、グラデーションがちょっとベタッとしていてカッコいいです。

 

なんだか、アボットとかアッジェとかあの辺のノリを彷彿とさせるアングル。いや、これはアッジェじゃないな、スティーグリッツともちょっと違う。エバンスか、田中長徳か、その辺りのバイテン(8×10インチのフィルム)で撮影している巨匠の本歌取りですかね、そういう雰囲気です。ニューヨークの街並なんだけれど、いつのニューヨークなのかよくわからない。40年代?20年代?と思いきや21世紀なんですよ。なんだろう、この時代に逆行するような感覚。スデクのプラハの写真みたいと言えば良いのでしょうか。

 

と、思っていたら、やっぱり序文にもちょっと書いてありましたよ、スティグリッツとかの写真について。やっぱり、初めてこの写真見たらスティグリッツの写真をプリントし直してるのかと思っちゃいますよ。

 

それじゃあ、Christopher Thomasの写真はそういう古い写真の焼き直しかというと、ちょっと違うんですね。このかたもともとコマーシャルの人だってこともあってか、写真がやけにフォトジェニック。もう、マイケル・ケンナなんじゃないかってくらいフォトジェニック。

 

マイケル・ケンナわたしあんまり詳しくないのですが、何となくファインアートになりすぎちゃってて写真の泥臭さが無い。Christopher Thomasも泥臭さは無い、けれどスティグリッツの香りを残している。その香りは、レモン水のレモンの香りのようにかすかではあるけれど、それが写真の肉体となって我々の視覚をしてディテールまで見せる。ディテールまで見たくなる写真を撮れるって重要なことです。フリードランダー先生を見てご覧なさい。

 

この人ドイツのミュンヘンにお住まいみたいなのですが、ベッヒャーから続く(ホントはもっと前からかもしれないけれど)ドイツ写真って、ここでアメリカの写真と出会うのかって思いました。ドイツ写真ってどっちかって言うとフォトジェニックを嫌うところがあって、最近人気のある写真家はドイツ人に限らずわざとフォトジェニックなところをはずしてくる。それが20世紀全般の写真におけるモダニズムのような時代(アッジェとかアボットとかの反モダニズムも含めて)とその後の写真の方向性の違いとなっているのかもしれませんが、最近またこういうフォトジェニックな写真を撮る方でてきてます。

 

私の好きなサリー・マンもフォトジェニックなことを恐れません。そういうのなんだか商業的な写真みたいで格好悪いって思ってた方沢山いる時代もありました。でも、そういうのも含めて写真の魅力なんだ、それで良いんだって開き直っちゃったりしているのが今日この頃です。尾仲浩二も水谷幹治も結構フォトジェニックです。

 

こういう風にコマーシャルの人のサイドからフォトジェニックさを肯定されると、写真好きの私はドキッとします。こんなに大っぴらにやっちゃって良いんだってことが新鮮です。以前タモリさんが初めてテレビでチャーがギター弾いてるところをみて「テレビであんなにギター弾いていいんだ」って驚いたって言ってましたが、それに似ているでしょうか。普通だったら「ああ、デザインとかコマーシャルとかの写真ね」ってコアな写真ファンには黙殺されてしまうかもしれないところですが、Christopher Thomasの写真は無視できない。

 

今後、おそらくコマーシャルもへったくれもなくいろんな写真を発表するのでしょうが、とても楽しみです。