書き出しの原案1

「佐々木さんを傷つけないように一応言っておくけど、私別に佐々木さんのことを嫌いとか、好きとか、そういうことを言っているんじゃないの。ただ、佐々木さんの書いているくだらない小説に出てくるような女にはなりたくないの。」

 

そうはっきり言われると、嫌いとか言われるより傷つくな。俺の小説なんてどうせろくに読んでもらっているわけじゃないのに。

 

一応、なんか言い返さないと格好がつかないから

「べつに、あなたのことモデルにして小説なんか書かないよ・・・」

 

と言い終わらないうちに

 

「だっていつも大体そうじゃない。奥さんのこと話したり、写真見せたりした後にすぐ、寝ようとか、キスしようとか・・・」

 

っと彼女

 

「いや、俺は寝ようなんて一言も言っていないし。それに嫁さんの話しは。いつも言っている通り、私は嫁さんを愛しているから、嫁さんを捨てて他の女と一緒になろうなんて考えていないんだよ。ただ、君のこと好きだっていうのはまた別のことで、だからこうしてキスしようと思うことはどうしょうもないことだろ。」

 

「だから、私はそういうどうしょうもないからってキスするような気持ちにはなれないの。なんでそんな事もわかんないの?佐々木さんの勝手な理論なんてどうでも良いの。

それに、パジャマ姿でベッドに座っている女の子にキスしようとするのは、寝ようと言っているのと変らない。」

 

確かに、彼女の言っている事はよく理解できる。しかし、それでも好きになったりするのが恋愛ってもんだろ。とにかく、今夜はこうして彼女の布団で寝るという運びになったんだ。ここまで漕ぎ着けるのに途方もなく時間がかかったんだ。俺はその間、ずっとずっと独りだったんだ。

 

「これから帰れって言っているわけじゃないんだからまだ良いじゃない。私、もっと早い段階で、お店にいる時とかに、もう帰ったらって言っても良かったのよ。どうせ奥さんが待っているんだろうし。でも、そんな事言わなかったじゃない。あなたが、ここまで一緒に帰ってきても特に文句は言わないし、眠たくなったら勝手に寝れば良いじゃない。でもだからって、キスして良いとかそんな事じゃないの。」

 

「いや、こんな遅くまで飲みにつきあってくれて、その上部屋に泊まらせてくれるって仰るのは大変有り難い事だと思っております。終電が無くなったからって、タクシーで帰れとか仰るのではなく、ここまで私がついてきても文句も仰らないでとっても有り難い事だと思います。

しかしながら、私も、男です。一緒の布団で寝ていいと仰る女性におやすみのキスもできないのは、どうも居心地が悪いというか、片手落ちというべきか・・・

キスなんて、しなくても良いんですよ。夜中に勝手におっぱいさわったりもしませんし。イヤラシい事考えたりもしません。朝になったらコーヒー沸かしてのんで、さっさと帰ります。」

 

「あのね、この部屋に布団は一組しかないから、その布団にはいっても良いって言ってあげてるの。それ以上の期待はしないでちょうだい。別にイヤラシい事考えるのも勝手だし、やりたくなったら布団の端の方で独りで勝手にやって下さい。私は、疲れてるので寝ます。

奥さん心配するんだから、朝んなったらさっさと帰るのよ。」

 

彼女は、寛容なのは素晴らしいと思うが、一体何を考えているのかちっともわからない。そもそも、女の子の一人暮らしの部屋に酔っぱらって転がり込んで、一緒の布団に入るなんて事になったら、まともな男だったらそりゃー最後までやるやらないは別にして、そこそこのこと期待するだろう?その流れで、キスしちゃうなんて事は、そりゃ、些細な事だと思うがね。