落第坊主の留年記と青春の瞬き

私は大学の講義というのが苦手だった。

何処が苦手かというと、90分というのが苦手だった。私の集中は三十分しかもたない。その上三十分毎に便意を催す。集中が切れると人の話が頭に入らない。

90分集中に耐える講義は鈴木良隆先生の商業史及び経営史と、松井先生の消費文化論だけだった。だから、どうしても聞いていたい講義の時は、先生にあらかじめ事情をはなし講義中二回抜け出してトイレに行きタバコを吸いに行っていた。そのような方法で瀧澤先生の失楽園についての講義と、高田先生の社会学系の授業を乗りきった。

だから、私が、大学六年間でまともに受けた講義はその四コマだけだった。当然私は落第坊主だった。

消費文化論二という、若くて美人の先生がやっていた講義は、初めの三十分だけは聞いていられたが、残りの六十分は飽きてしまって、カメラジャーナルという雑誌のバックナンバーを読むのに費やした。そのおかげで、カメラジャーナルのバックナンバーを全て読破し、消費文化論二の単位も頂いた。

全ての出席レポートにその日のはじめ三十分の感想と、残り六十分のカメラジャーナルの感想を書いたら、先生の方がそれに慣れてくれて、単位をくれた。講義の内容はフランスのデパート、ボンマルシェにおける主婦の万引きについてだったので、自分の中学時代の万引を引き合いに出して、デパートで万引きするような主婦連中はいくら言っても治らんだろうと毎回書いた。それより、今日の私はフランスのレンズ、アンジェニューのエロスとキノプラズマートが如何にシャープかの方が気になりましたと書いたら、先生から私の旦那もカメラ好きみたいです、と返事が返ってきた。

学生時代はカメラ以外のことに興味がわかなかったので、それも仕方なかった。

 

大学六年生の時はホント卒業出来ないかと思って必死だった。

特に夏学期のテスト期間。履修単位全て通さないと、留年確定だったから、テスト寝過ごしたら卒業が出来ない。

仕方ないから朝までやってるバーで一晩中勉強しながら飲んで、あさ八時半にバーを出てテスト受けに行く。そして、テストの間に一時限以上空く時は別のテストやっていても構わず次の教室に行って寝てた。

 

そうやって全てのテストが終わった日に、当時仲良くしてた学校の後輩の部屋に行って飲んで泊まった。彼女の彼氏が次の日の夕方に異国からくるというから、彼女とはひと夏の最後の一夜だったが、私は力尽きて、アッバスキアロスタミの映画の途中で寝た。

次の朝、10時頃起きると、快晴だった。おい、夏休みがやってきたぞと、寝てる彼女を起こして、とにかく今まで我慢していた人の悪口を気の済むまで言い合って、そのままヌード撮影会やって、裸のまま抱き合って昼過ぎまで寝た。

青春とは、そのときには何も感じないで、ただただそのことに夢中な時なのかもしれない。私は彼女を抱いて寝ているとき勃起すらすることを忘れていた。

 

あの日の朝が私の青春時代で最も美しい朝だったのかもしれない。

今思い出すと、とても牧歌的な学生時代だった。

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コメント: 1
  • #1

    ED (火曜日, 12 5月 2015 20:51)

    「大丈夫、すぐ終わるから、怖かったら目ぇ閉じてろ」