拝啓、東京は初夏と言っても過言でないくらい、暑い日が続きますが、そちらは如何ですか?お元気にしてますか。あなたに最後に会ったのはいつでしたかね。もうすっかり忘れてしまいました。
今日こうして便りを書いているのは、僕たちが学生だった頃のことをふと思い出したからです。あの頃の僕は落第坊主で、ろくに大学にも行かず、酒ばっかり飲んでましたが、あなたはあの頃から優等生で、小難しい写真作品を撮られたりしてましたね。そう考えてみれば、僕は社会人医なっても相変わらずの落第坊主で、あなたは今でも写真を続けられて、社会人としてもエリートコースをたどっていますね。今の僕たちも、やっぱり然程変わってませんね。
変わったことは、私が結婚したことくらいかな。
落第坊主の私もあの頃は写真ばっかり撮ってました。あなたが、どちらかと言うと内省的な写真ばかり撮っていて、僕は街ばかり撮ってました。
学生会館覚えてますか?きたない所だったけど、僕たちが最初に会ったのはあのきたない建物の中でしたね。あなたは男みたいなカッコして馬鹿でかい一眼レフを持っていて、僕は安物のニコンを持ってましたね。
あの、暗室を覚えてますか。僕は数度しか使わかなったけど、あなたはいつもあそこで写真を焼いていた。僕はあの汚い暗室が苦手で使うのがイヤだったから自分のワンルームの部屋をすぐに暗室にしました。あの汚い暗室から、あんなに純粋で透明なあなたの写真ができ上がることが不思議でした。
そうそう、今日思いだしたのはその暗室を出たところにあった洗面台。洗面台というより手洗い場と言った方が良いのかもしれないけれど、汚いステンレスのながしが暗室の横にありましたね。
あそこのながしでおこった奇妙なことを思いだしました。
或る朝、殆ど学校に顔を出さない僕が、学生会館に行ったとき、暗室の方から異臭がしました。異臭というよりも、明らかに人間の大便の匂いでした。
近くまで行ってみたら、匂いは暗室からではなく、外にある流しの方からでした。どうやら誰かがそこで用を済ませて、大便がながしに詰まっていたのです。
学生会館には私の他にはほとんど誰もおらず、仕方なく私が学生課に行き事情を告げました。そうしたら、学生課で一番若い兄ちゃんが対応してくれるということになり、その兄ちゃんと二人で学生会館へ戻りました。
くだんのながしに到着すると、学生課の兄ちゃんはイヤな顔をひとつせず配管の詰まりを治すべく、長いワイヤーの様なもので作業をはじめました。その姿を見て、大人になっても絶対に大学の学生課でははたらくまいと思いました。
何故だかはわからないけれども、そんなことを、ふと思い出し、あなたに便りをしたためました。
いつか僕たちの子供が大きくなったら、また、あなたと一緒に学校を歩きたいです。僕等の子供を連れて。
不思議なことだけれど、きっと、学生時代のあなたとまた会えたような気持ちになれるのではないかと思います。
では、その時まで。お元気で。
敬具
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