六本木バニラムードで若林一也のSexesを聴く

私はSexesの演奏を聴くのは４回目である。リーダーの若林一也のセンスが光る楽曲、それも結構キャッチーな路線なのである。その、けっこうかちっとしたものの上でフリーインプロに限りなく近いものが展開される。完全にフリーじゃない、かなりおとなしめなのだが、ベースがそれをどんどんあおっていく、それにドラムがついてくる。その乗ってくるタイミングが、曲に寄って微妙に違い、だから面白い。いつくるんだ？いつ行くんだ？という緊張感がある。

そもそもこのバンドの演奏を聴きにいっているのは、私の贔屓にしているピアニスト、森田珠美さんがキーボードを弾いているからなのだ。珠ちゃんは私の知る限りのこの銀河で最も可愛いピアニストであり、とてもキラキラしている女の子である。彼女が懸命に鍵盤をたどる姿を見るだけで僕のお腹はいっぱい。もう、彼女がピアノを弾く姿を見れて、それでステキな音楽に身体と心をまかせられる、これ以上の会館はこの銀河にはないだろう。森田珠美さん、あなたのピアノをもっともっと聞きたい。色んなバンドで聴きたい。

珠ちゃんも含めSexesのプレーヤーは皆やんちゃである。一番フリーに傾倒しているように見える若林一也が一番かちっとしている。だからバンドとして成り立っているし、私たちは彼らの音楽に快感を感じるのだろう。

しかし、Sexesの最も面白いところは、彼らの音楽の不快さである。不快さというと語弊がある。ストレスである。もっと、こういうの聴きたい、もっとこうなるかと思っていた。そういう期待をいい意味でも悪い意味でも裏切ってくるのである。彼らのインプロバイゼーションは真剣勝負で一発勝負である。聴く限りでは、あらかじめこんな風にしましょうねみたいな制約はないように聴こえる。誤解がないように言うが、なんでもありというわけでなく、ビートはステディーだし、ベースラインもクラブミュージックのようにステディーである。けれども、彼らの音楽は出たとこ勝負なところがある。だからあれだけのクオリティーにまとめられているのは素晴らしいことだと思う。素人ではああいう風には行かない。ただのダラダラ垂れ流しインプロになってしまう。まあ、それはそれで面白いのだが。

それで、裏切りについてである。私はこのバンドを聴く度に、ああこの人達ってもっとこんな風になれば面白いのにな。とか、もっとアンビエントな世界に攻めて行ったらどうなるんだろうと感じている。しかし、彼らはそれをしないで、どちらかというと、カッチリ、定石を押さえて演奏する。それはあまり歓迎することではない。どうです、こういうサウンド面白いでしょ？こういうの待ってたでしょ？という感じである。空間系のエフェクトの多様もしかり、８０年代のフュージョンを思わせるレトロなリフレインも然りである。

確かに、ああいうサウンドは懐かしくて、面白いと思う。けれども、今のままではリスナーはすぐに飽きてしまうかもしれないという危険も孕んでいる。ディレイ、ワウ、そういうのは７０年代以降随分みんなやってきたけれど、そういう濃い味付けのものは、みんな飽きてしまうのも早い。せっかく、いいプレーヤーが揃っているのだ、エフェクトを控えめにしてもっと薄味の音楽にしてもいいと思う。まあ、私の勝手な意見なのだが。

森田珠美さんは、結構カッチリとしたモダンジャズのバンドでも演奏を聴いたことがあるが、それも悪くなかった。若林一也さんはもっとフリーな演奏を聴いたことがあるが、それも悪くなかった。悪くなかったものを組み合わせれば良いものができるというわけではないけれど、きっと彼らなら、もっともっと面白いことができる。ライブを聴く度にそう思う。現に今夜のゲストトリオはフリーが苦手な私も十分楽しめた。まあ、あんまり好みではなかったけれど。あの人達がこれからどのくらいの頻度で演奏をしていくのかはわからないけれども、キャッチーなところは残して、もう少し何かがあればいいともう。それは、何かを足すことではなく、何かを引くことだと思う。それが何なのかは私にもわからないが。

とにかく、このブログを読んでくれている全国の珠ちゃんのファンの皆さんは、一度Sexesでの彼女の演奏を聴いてみることをお勧め致します。

またSexesていう、中学生みたいなバンド名もイイとこついてるよね！