遠くで汽笛を聞きながら

5月のはじめに新潟へ行った。新潟で学校の先輩が写真展を開くとのことで、それを見に行った。同時期に音楽祭も開催されるというので、それを聴きがてら、一泊二日の一人旅をした。

カメラはプラウベルマキナ、30年代のアンチコマーがついているやつ。フィルムはトライエックスを念のため20本持って行った。フィルムを持って行って正解だった。新潟の街並は美しかった。一日目の午後に瞬く間に十数本を撮り終えた。東京で撮っている写真と並べてもわからないくらい自分の好きな風景が新潟にはあった。そのことを、今回の訪問まで知らなかった。

 

写真展を見て、その夜は新潟の酒を堪能した。堪能しすぎてしまった。時間が早く進んだ。

二日目はまた住宅街に行き写真を撮った。アポロンというギター屋さんが市内にあるので、見に行った。とてもステキなギター、東京でもまず見つからなさそうなギターが取り揃えてあった。

 

二日目も、写真展を見に行ったが、そこで出会った人たちと話しをしているとすぐに夕方になった。帰らねばならない。

 

新潟の駅前で東京に帰る電車を待つ間学校の先輩(写真家)に一杯付き合ってもらった。明日からまたいつもの仕事に戻る為に頭を切り替えたかったが、その前に新潟のうまい酒を二合ばかり飲んでおこうと思った。

店は席の半分くらいがうまっていて、まあまあ繁盛しているようだった。威勢のいい若い女性店員が熱燗を運んでくれた。

こうして、新潟の名残を熱燗二合で片付けようと入ったのだが、いざ帰るとなると、竜宮城を去る浦島氏の気持ちになった。うまい酒、美味い魚、ステキなギター屋、ステキな街並み、先輩を後にのこし、東京の日常に戻るのはとても辛かった。子供の頃田舎のばあちゃんの家から札幌に帰るあさの気持ちを思い出した。あの時も熱燗二合があれば良かったかな。

 

先輩と話すこともなく、押し黙って二人盃を交わしていると、ラジオからアリスの遠くで汽笛を聴きながらがかかった。

 

もう東京へ帰ろうと思った。