マーギーがマーギーと呼ばれるようになったのは変わり者のオギーと付き合い始めてからだ。オギーも変わり者だが、マーギーはその上を行く変わり者だ。
風呂の無いアパートに住むオギーが我々が集まる小さな狭いカフェに来たとき、たまたまいたのがマーギーだった。
久しぶりだね、オギー。最近あんまり遭わんかったね。仕事?
いや、なんだか家に篭りたくなって、絵とか文とか書いてたら一週間も外に出なかった。めしも、カップ麺がたくさん買い置きしてたから。結局コーヒーとカップ麺だけで一週間経っちゃった。
バイクは今日は?無いみたいだね。
ビール飲みにきたから。
と、オギーは小さな声で呟いてビールを飲み始めた。
それから30分くらい、或いは五分ぐらいか、オギー、わたし、マーギーの三人は黙ってビールを飲んだ。長くゆっくり時間が過ぎるのを、手持ち無沙汰になったわたしは独り耐えていた。それはマーギーも多分一緒だった。
もう少し黙っていようかと思っていたら、マーギーが話し始めた。
オギーさん、なんだかお疲れみたいですね。風呂入ってゆっくり寝たら良いんじゃ無いですか?わたしも明日早いし、帰って寝るかな。
彼女の言葉があまりにも白々しくてありふれたものだったので、わたしたちは何故だか照れ臭くなり、ポツリポツリと話し始めた。
そういう風に一時間ビールを飲みながら話しているうちに、オギーがマーギーの部屋に風呂に入れてもらいにいくことになった。それは、雨水が雨樋を辿るように、ごくすんなりと、あらかじめ決めてあった話のようにすすんだ。
佐々木さん、変な想像しないでね。俺、疲れてて、きっとそういうことできるパワー残って無いから。
二人の名誉のために書くが、その夜二人は寝た。オギーがマーギーのうちに風呂に入れてもらいに行った夜だ。
これはオギーからそう聞いたわけではないが、次に二人にカフェで逢ったときに気が付いた。
二人は狭いカフェの四人がけの席に二人並んで座っていた。わたしが店に来たことに気づいたとき、オギーは椅子の上に手をついていたマーギーの手の上に重ねていた自分の手をそっとどけた。
外では静かに雨が降っていたが、店の中は少しだけ暖かかった。
初めにわたしに気づいたのはオギーで、
あ、佐々木さん。お久しゅう。
とぎこちない古語でわたしに声をかけた。
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