秋の夜に想う

死後の世界は有るのだろうか?産まれる前の記憶は無いというのに。私は人間は一度しか生きられないと思う。産まれ変わることはないのではないか。天国はあるのか、地獄は有るのか?
ないと思う。
しかし、三途の川みたいなのは有るらしい。人の命が終わり、人の身体から心が抜けるとき、心は何処か知らない所へ行くらしい。
らしい、らしいで恐縮だが、私は三途の川の説明を受けたとき、死に際した人の多くが三途の川へ、正確には喫茶店なのだが、行った共通の経験をしたと聞いて、それは信じられる気がした。
それでは、一度も心を授からなかった命はどうなるだろう。きっと心は身体の形成と共に作られている。そして、生命のリプロダクションでのみ、それは可能なんだ。今のところ。そして、心の形成は産まれてからされる後天的なものなのだろう。
植物に心はあるか。都市や惑星、宇宙には始めから心はない。しかし、では心と呼ぶものは何なんだろう。私...の憶測では、人間の頭脳の中で育まれる世界観を人は心と呼んでいるのだと思う。だから、人間以外の生物には正確な意味での心はない。ただ、心に似たものがある生物もいるというだけのことだ。
だから、三途の川は人間にしか存在しない。人間の生命の一部なんだ。

榎本先輩の写真を見ながら、そんなことを考えた。写真は心とは関係なく存在する。しかし、印画には人間も、それ以外の生物も、建物も、同じように存在し得る。彼女の写真には心の特権階級である人間を排除している。だから、私は印画のなかに、そこには写らない心による作用を意識した。彼女の写真もまた、心の特権階級を自覚させ、それが無常であることを指し示しているのだ。

榎本先輩は本当に洗練された写真作家です。気になる方は是非彼女の写真を見てみてください。