チェットベーカーについて何度かこのブログでも書いて来たが、特定のアルバムに関しては特に書いていないと思う。
Let's Get Lostは全部通してみたことはないが、はじめの30分ぐらいはYouTubeで見ることができるので、見たことがある。あの有名なブルースウェバーの回想から始まる。
初めて彼に会ったのは 遠い昔ニューヨークでのことだ。冬の大雪の日だった。
僕はティファニーの前の交差点を渡っていた。
彼はシボレーのコンバーチブルで、赤信号で止まった。
雪が彼に降り積もっていた。 髪までびっしょり。
カーラジオから ズート・シムズを聴いていて 雪に気付かなかった。
それがジャズさ。
チェットがコンバーチブルの後部座席に座っているカットに切り替わる。
その冒頭の部分を何度も何度も見た。チェットが本当にボロボロで年老いているのだが、若いころのチェットと変らない瑞々しさを感じさせられるそのシーンが好きだった。
チェットの音楽は若い頃から大きくは変わっていない。ビバップからクールジャズに移り変わる50年代のジャズシーンに現れたチェット、チャーリーパーカーとの共演、数多くの雑誌の人気投票で一位になり注目された時代の彼の音楽はまさにクールジャズの時代の到来を象徴していた。その時代のチェットの音楽も、80年代の晩年のチェットの音楽も大きくは変わらない。進歩がないといえばそうなのかもしれないが、進歩というものが音楽においてさほど重要ではないこともある、チェットの音楽はそのことを私に再確認させる。チェットのトランペットのテクニックはそれほど進化はしないし、音も殆ど変わらない。しかし、晩年のチェットの音楽のにおいてあえて一つの変化を挙げるとすれば、それは透明感が増したということだろう。
チェットの晩年の音楽の持つ透明感は無色透明で視界が広がっているような感覚とは別のものだ。むしろ透明というよりも霧がかかり曇っている。その霧の中から明かりが射しかろうじて向こう側が見えてくる、チェットの音楽はそんな感じだ。霧の向こうの灯りがかすかに見えるからこそ「透明感」が出てくるのだ。ベルベットのようなトランペットの音色、晩年のチェットは静かなピアニストやギタリストと組むことが多かったためか、演奏がそれほどヒートアップしない。決して華やかではないのだが、静かで美しい、そういう音楽だ。
Let's Get Lostのサントラはそんなチェットの音楽の完成形が詰まったアルバムだ。映画のサントラであることからか統一感があり、一枚のアルバムとして楽しみやすくできている。チェットの音楽の入門盤ではないが、彼の音楽の魅力がわかりやすい形で現れているアルバムだ。
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勃起不全 (木曜日, 30 4月 2015 12:52)
これいいね!すごい!お気入り>_<