あの9月13日がまた巡ってきたら

パソコンやらアイフォンやら、いじっていると本当に腹が立つ。

普段は、普通に使えばいいのだが、今みたいに出先だと、どうしてもiPhoneの設定をやり直したり、パソコンの設定をしなおしたりしなければならない。こういうことはもっと簡単にできるようになって当然なのに、世の中っていうのは便利なものができるほど面倒なことが増えていく。パソコンやらiPhoneだけじゃない。Facebookやらツイッターやらも、便利なんだが、あれらのせいで本来は知りえなかったことがわかってしまうし、今までなら繋がりようがなかった方々とつながる。もっとも、私は本来なら一期一会の関係のはずの方と今でも繋がり、本来なら名前すら知らなかった素晴らしいミュージシャンのライブ情報を仕入れたりして、また、それらの方々と繋がっているのだ。そのおかげですごく傷ついたり、すごく幸せを甘受したりしているのは確かなのだが。

 

今日は、そういう一期一会の関係のはずだった方々とお知り合いになれた話。

こういうことばかり書いているとしみったれた人間のように聞こえるが、それも当然。私は大いにしみったれた人間の一人なのだ。しみったれていて結構。

 

2015年の年末まで、三ノ輪の自宅の近所に小さなカフェがあった。いつも若手のアーティストの作品やらを展示していて、展示内容もわかりやすくまとまっていた。店の名前からは何の店なのかわからんような店名だった。私も、あの店がなぜあの名前であったのかはよく知らないし、わからない。ただ、その店は確かに存在した、2年弱の期間にわたって。そして、確かなことは、その店はもうない。その店がないという事実は何とか今では受け入れられているのだが、その店がかつてそこにあったことを私は今でも忘れられないでいる。そして、その店が私に与えたものが確かにあったということを、私はまだ受け入れられないでいる。

 

その店が私に与えたものは、とても恥ずかしい言い方をすると、第2の青春の序章だったと思う。だから、すでに第2の青春の序章は永遠に終わってしまった。そして、その序章の後に続く私の世界は、なんともこんがらかって、なんとも捉えがたい形になってきている。例えば、今こうして、2歳になる娘と最愛の妻と別居し、こんなしみったれた世田谷のはずれの、そのまたしみったれたワンルームアパートの一室でパソコンのキーボードをぶっ叩いていることが、自分にはなんとも捉えがたい。なんで、今こうしてここにいるんだ?なんで自宅に帰らないんだろう?

 

全ては、すでに始まってしまったことだし、ひょっとするともう大部分が終わってしまったことなのかもしれない。私はそれを受け入れたくないが。

しかし、何かが始まったことは確かだ。

 

彼女に出会ったことは、今の私にとって何にも代えがたいことであることは間違いないだろう。彼女のことが好きだし、数少ないなんでも口に出して言える相手だし、彼女の真面目さが好きだし、彼女の歌声も素晴らしい。もちろん、恋愛という側面から行くと、それは私の一方的な感情に終始してしまい、それ自体の存在を私以外の誰も知らなく、したがって何も語るべきことが見つからないのだけれど、大切な友人、同志、それからなんだろう、アドバイザー、アーティストとして彼女は確かに私の中に存在する。

 

その店で彼女と出会ったのは2014年の8月の始め。すごく暑い日の夜だった。土曜日だったかな、覚えていない。私はいつものように8時ごろ風呂から上がり、着の身着のままで自宅を出て明治通り沿いにあったそのカフェに入った。いつも通りハートランドビールを頼み、席に着いた。店には先客がいた。それも、6人組が。そこは狭い店だったから10人も入ると店がいっぱいになった。だから、先客6人は多い。

6人は少し疲れた顔をしていたが、皆めをキラキラさせてビールを飲んでいた。

一番端っこに僅かに白髪交じりのヒョットコみたいな顔をして、甚平を着たいかにも下町っ子の女の子がいた。私は黙って彼女の話を盗み聞きしていたが、あまりにその話が素っ頓狂で、そして現実的で、それに相槌を打っていた男性群のツッコミも面白く、5分もしないうちに、つい彼らに話しかけてしまった。彼らは、浅草の近所でアートのイベントを開催している方々だった。あのヒョットコみたいなねえさんが元締めかと思っていたが、彼女の話ではそういうわけでもないようだった。ヒョットコの隣に小さく座っていたが声が大きくハキハキとした女の子が元締めだとヒョットコのねえさんが教えてくれた。それは、ちょっと意外だった。ハキハキとしていて、目がキラキラしていて、ちょっと可愛い女の子で、年はわからんが30代前半ぐらいでおそらく既婚者の女性だったが、進んで話すという感じではなく、聞き役の方が似合いそうな方だった。

私の、記憶はそこまでだ。その夜のことは詳しく覚えていない。

次に元締めの彼女に出会ったのはそれから1年以上経ってからだった。

2015年の9月13日。友人の結婚パーティだった。その店で出会った友人の結婚パーティ。私はちょっとそのパーティでちょっとした余興を頼まれていた。私は、その頃カントリー音楽のバンドを脱退してちょうど1年ぐらいが経っていたが、余興らしいことでできるのはカントリー音楽のバンド演奏だったから、ギターを持って、かつてのバンド仲間とパーティに出席した。一応、ステージに立つわけだからやけに目立つカントリーの衣装を着て。

パーティが始まる30分前に軽くサウンドチェックをして、先にビールを一杯飲んで始まるのを待っていた。

 

15分前ぐらいには、それぞれ受付やら、クローク係やらを頼まれた方々が入ってきた。私はロビーにタバコを吸いに出て喫煙スペースで10分以上を過ごした。サウンドチェックが終われば特にすることもない。

 

パーティーはしばらくしてから始まった。

入り口で受付を済ますと、ポラロイドで写真を撮られた。

カメラを持っていたのは彼女だった。小柄な体に、どこを探しても彼女しか着ないようなヴィンテージ生地の薄緑のスーツを身にまとって、ポップなデザインのポラロイドを持つ彼女は、そのパーティに出席していたドレスアップしたどんな女性たちよりも目立っていた。パーティードレスは所詮パーティードレスだ。女性を美しく見せるし、それに合わせたピアス、バッグ、靴、どれも彼女たちを特別の姿にする。けれども、そのパーティでは誰が一番輝いていたかは間違えなく私にはわかった。

パーティードレスを着た女性客がアメジストのようにインディゴに輝いている中で、彼女は畑に生えている長ネギのようにピンとして、マツダのRXのボンネットに反射する太陽ぐらい輝いていた。

 

今夜は、疲れたので、続きはまた今度。