楽器屋に勤める私が言うのも何だが、楽器の機種による差ってとても小さなファクターだと思う。
たとえばギターについて言えばレスポールとストラトでも、CDで聴いてその音の差をわかるのはギタリストぐらいだと思う。一般的には。いや場合によってはギタリストだってスピーカーの向こうでどんなギターを弾いているのかなんてわからない。これは、アンプ、エフェクターやらの話を置いておいても、たとえアコースティックギターだってそうだ。
例えば、SRVはいつもボロボロのストラトを弾いているイメージだけど曲によってフライングVで弾いたりする。
彼のライブ盤を聴いて、あ、これはストラトじゃないなフライングVだなってわかる人がどれぐらいいるか?
オールマンやらディッキーベッツがSGとレスポールを持ち替えて気付く人がどれ程いるか。
ひいては、ジムホールがレスポールカスタムとES175を持ち替えたのすら気付かないのは、わりと普通だと思う。
しかし、楽器のメーカーや機種の違いは弾いてる本人には大きな違いなんだってことは楽器をちょっとでも弾く人はわかるだろう。いや、この問題は俺にとってものすごく大きなテーマなんだ。
ギタリスト(趣味で弾いている人も含めてね)にとってみれば、ストラトを選ぶか、レスポールを弾くか、フルアコにするか、セミアコにするか、それともテレか、ストラトならフェンダーにするか、コンポーネント系にするかなんていうのは一大事。場合によっては全部持っていて使い分けている人もいる。
ピアノだってヤマハとカワイ、ベーゼンドルファー、スタインウェイやらベヒシュタインだと違うだろう。
でもやっぱり、演奏を聴いている方にはその違いがわからないなんていうのは普通なこと。
トランペットも、聴いている方は個人差ぐらいわかっても、楽器の違いはわからないだろう。
例えば、有名なマイルスデイビスは若い頃頻繁に楽器を替えていた。
チャーリーパーカーと一緒に吹いてたころはフレンチベッソンを持っていたが、クスリでメチャメチャになってきてベガやらレイノルズなんかも使っている。有名なブルーノートのアルバムのジャケ写にはレイノルズをかまえるマイルスの写真が使われているけど、マイルスがレイノルズを持っている写真なんて後にも先にもこれぐらいしか見たことない。ベガも、レイノルズもフレンチベッソンに比べたら安い楽器なのだが、レコードを聴いていても違いはわからない。
クールの誕生の時はマーチンコミッティ、イエローブラスにラッカーのモデルだ。
マラソンセッションの何枚かは三番バルブのボトムキャップが取れたマーチンコミッティ(マイルスの自伝によればアートファーマーに借りたのか?)、この楽器はCBSの初期のアルバムにも使っている。マラソンセッションの残りのアルバムでは、自分のトランペットを持って来なかったらしくスタジオにいたエンジニアに借りたブッシャー(アリストクラート?)の古いやつらしい。
CBSと契約して金持ちになったらすぐに豪華な彫刻入り金メッキベルのマーチンコミッティデラックスに持ち替えている。この楽器はジャケ写には何故かあまり写っていないけれどカインドオブブルーなんかはおそらく、マーチンコミッティとコミッティデラックスで吹き込んでいる。
その後はマーチンのエンドース契約で作ってもらったのか、黒いラッカーのマーチンコミッティ。見た感じ全部イエローブラスのモデルだと思う。デラックスはリードパイプなんかが洋白だから写真で見る限りコミッティの派生モデルだと思う。
けど、このコミッティが抜き差し管のレイアウトやらチューニングスライドのレイアウトがレギュラーモデルと随分違う。きっとマイルス本人のチョイスなんだと思うが、マーチンはよくまあワンオフで作ったな。
その後も色々仕様を変えてマーチン使ってるんだが、マイルスはとにかくいろんな楽器を持ち替えていた。特に若い頃は。
レコード聴いて違いがわかる人がどれぐらいいるだろうか?
どれもあのマイルスの音が聞こえるっていうのは感じるかもしれないけれども。
ああこれ、ベガのパワーモデルの音だな、
とか
ああ、これコミッティデラックスね。
とか、わかる人はいるんだろうか。
マイルスは、それでも色々持ち替えてるところをみると、やっぱり何か吹いている感覚とか音色とかの好みが有ったんだろうな。
チェットベーカーはもっと持ち替える。というか70年代なんかは自分の楽器持ち歩かないでツアーしていたらしいから、時々写真でシルキーなんて吹いている。シルキーなんてチェットベーカーが自分で買ったりしなそう。
けど、どんなに下手くそでも使う楽器って重要なんだ。弾いている本人の気分が違う。ギターみたいな抱える楽器はもちろんだけど、それ以外も随分違う。そして、弾いている本人にとっては、楽器の機種によって随分音は違って聞こえる。
たとえば、マイルスの例で出てきたマーチンコミッティ(Martin Committee)とコミッティデラックス(Martin Committee Deluxe)見た目は似てるんだがやっぱり違いはある。
コミッティはデラックスに比べて明るい華やかな鳴りがする。対してコミッティデラックスはもう少し角が丸く柔らかい音がする。少なくとも吹いている本人にとっては。デラックスの方が上品なイメージ。
チェットベーカーは若い時コミッティデラックスを愛用していた。チェットは熱心な50年前半のマイルスのファンだからマイルスとおなじコミッティを使ってもいいようなもんなのに、本人曰くマーチンの工場まで行って10本以上吹き比べて選んだというのだから、コミッティデラックスにしたのには理由があるんだろう。
そう言われてみれば、チェットのようなダークでソフトなサウンドを求めるのならコミッティデラックスの方が向いていると思う。いや、レコード聴いていても楽器何使っているかなんて全然わからないんだけれど。ジャケの写真見て何使っているのか知っているだけなんだけれどね。
だから、もう一度言うけど、楽器を弾いている本人にとってはとっても重要な違いなんだ。プレーヤーにはそれぞれ自分の好みっていうのがあるし、その特定の楽器の機種が、その個体が自分の音っていうのを作っていることには変わりないんだ。(特に、ギターやトランペットみたいに持ち歩ける楽器の場合は)
でも、そうは言っても、楽器弾く人のまわりの家族とかにとってはあんまりどうでもいい話でしかないということも確かなんだけど。
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Hiram Gorgone (日曜日, 22 1月 2017 20:31)
Really no matter if someone doesn't understand then its up to other viewers that they will help, so here it occurs.