母さんへ

今日は家族で吉原に行ってきた。

 

そのあと、音楽室で楽器を練習した。

そしてダイニングで妻の作ったカレーを食べた。

カレーを食べたら元気が出たので、ピアノでフレディーマーキュリーの歌を真似していた。

 

ボヘミアンラプソディ。この歌は少年の歌だ。

もし少年が少年のままでいれるのなら、そのために人を殺すことも必要なのかもしれない。人を殺した少年はなんとなく大人にならないような気がする。

少なくとも、この歌を聴いているとそんな気がする。

 

お母さんね、今日僕は人を殺したんだ。頭にめがけて、トリガーを引いたら一発だったよ。

お母さん、僕の人生は始まったばかりなのに、今となっては全てが指の隙間から転げ落ちて行ったんだ。

ああ母さん、あなたを泣かせたりするつもりじゃなかった。
もし僕が明日、この時間、戻ってこなくても気にしないで。
何にもなかったみたいに。

 

中略、

 

さよなら皆さん、もう僕は行かなきゃ。
全てに背を向けて現実に向き合わなきゃいけない。

母さん、僕は死にたくなんかないよ。
時々、はじめっから生まれてこなけりゃよかったんじゃないかって考えるんだ。

ああ母さん、僕はいつもあなたを悲しませてばかりなのです。
フレディーマーキュリーのコスプレをしてパクられたり。
大学を2年留年したりして。いつだって母さんを喜ばせたいって思っているのに。

ママー、ウーウーウー

 

 

でも、こういう人生に見切りをつけることが一人の人間としての一歩なんです。
もう母さんを喜ばせようなんて思わないのです。自分の手で金を稼いで、家族を養ってるんですから。
だから、今は必要があればもう一度引き金を引くことだってできます。あなたを泣かせることだって厭いません。
それが悲しいかな、一人の大人になるということなんです。

 

母さん、今日精神病院に入りました。路上で人をぶん殴って、警察に囚われて一発です。
僕の人生はもう半ばに来ているというのに、また振り出しに戻りました。

 

ああ母さん、僕は相変わらずあなたを悲しませてばかりだね。
それだけじゃなくて今は家族も悲しませているんだ。
もし、僕がこのままここを出られなくても、気にしないで。
まるで何もなかったみたいに。

 

母さん。僕は時々考えるんだ。
はじめっから生まれてなんてこなければよかったんじゃないかって。