Stan GetzもChet Bakerも生まれ年はそれほど変わらないけれども、キャリアはStan Getzの方がずっと先輩である。
ウィキペディアによるとスタンゲッツは1927年生まれ、チェットベーカーは1929年生まれだそうな。けれども、チェットが出てきたのは52年にカリフォルニアでチャーリーパーカーのバンドで吹いた時ぐらいからなのに対し、スタンゲッツはかれこれ40年代のビバップの最初期ぐらいにはもう有名なビッグバンドを渡り歩いて、ウディーハーマンオーケストラでZoot Simsなんかと一緒にやっていたんだから、ゲッツの方が大先輩と言っても過言じゃないだろう。
けれども、所謂クールジャズが好きな人や、50年代初頭のハードバップが好きな方には、二人とも欠かせないジャズマンであることに違いないだろう。
今日は、そんな二人の共演板について。
この二人の共演盤は1953年にロスのヘイグで演ったピアノレスのライブがあるんだけれど、私個人としては1983年2月18日と19日にストックホルムで演ったライブ盤の方が好きだ。
勢いは53年の録音の方があるのだが、ピアノレスのせいか、全体的にテンポが早いせいか、なんとなくせわしなく、聴いていてなんとなく心もとない。メンバーは結構いいメンバーなのだが。83年の方が、安心して聴いてられる。なんて言ったってこの頃の(いつの時代も良いのだが)ゲッツのリズムセクションは素晴らしい、もう、めちゃくちゃノリがいいのだ。ジャズの言葉で言うとスイングする、と言えばいいのか、きちっとゲッツのサックスについてきて音楽をどんどん前へ進めていくような、そういう頼り甲斐のありそうなリズムセクションだ。
スタンゲッツ、私は80年代以降の彼の演奏が特に好きなのだ。録音機材が良くなったせいもあると思うが、80年代頃からはフレーズのアクセントもくっきりして、少しエッジが立つような音になってなんだか脂が載ってきた感じがするのだ。いや、スタンゲッツはいつの時代も素晴らしく、おそらく最高のサックスプレーヤーだと思うけれど。でも手元にあってよく聴く録音は(年に3回ぐらいしか聞かないのだが)大体80年代以降のものだ。
それで、このライブ盤である。
2月18日録音の「The Stockholm Concert」という方のCDは3枚組で、スタンゲッツがワンホーンでやっている曲も何曲か入っているのだが、Stablematesとかお馴染みのハードバップナンバーを小気味好くゲッツは吹いている。ワンホーンの演奏を聴くと、ゲッツってやっぱりすごいな、って思う。もう、ワンホーンカルテットの演奏でお腹いっぱいです。もうチェットベーカーいりません。みたいな気持ちになるくらいワンホーンで吹き切る。それほど熱い演奏でもなく、比較的さらりと吹いているんだが、それでもバンドのサウンドが分厚いから熱くなくても十分。
満を持してJust Friendsから Chet Bakerが登場する。
歌からの出場である。
Chet Bakerはまあ、いつもの調子なんだろうが、どうもさっきまでスタンゲッツのワンホーンで温まっていたところなので、チェットの力の抜けたアンニュイな歌を聴くと脱力する。いや、決して悪くないのだが。ゲッツとチェットとの温度差が結構あるのだ。この調子でどんどんライブは進んでいく。
そんな中、スタンゲッツは、なんとなくチェットに合わせたトーンで吹くのである。一人で吹きまくったりせず、軽やかにチェットのトランペットとボーカルの温度にまあまあ合わせている。おにいちゃんが弟の横に座って、めんどうを見ているような感じだ。
チェットベーカーも偶にだが、熱いときは結構熱い演奏するのだが、スタンゲッツと共演するにあたっては、そういう熱いセッションを繰り広げようと思わなかったのだろう。いつもの調子で、といった感じでマイペースに吹き、歌っている。
そういえば、この人たちクールジャズやってた方々だったからな。
しかし、ライブ盤自体は悪くない。
チェットとゲッツの熱いバトルが繰り広げられるわけではないし、新しいスタイルのジャズも登場しない。チェットも本調子という感じではない。むしろ、チェットはちょっと調子悪いんじゃないか、っていうくらいだ。
しかし、ここには30年経ち熟した演奏がある。ゲッツのバンドも、あえてオーソドックスな50年代前半のようなスタイルでジャズを奏でる。
スタンゲッツのバンドにとってみれば、
いっちょ、チェットベーカーと古き良きジャズやんべえか。
ってな感じだし、
チェットにとってみれば
スタンゲッツと共演するけんど、まあ、いつものようにやんべえか
ってな感じなんだろう。
けれど、それでいい。それでも問題なく素晴らしい音楽が出来上がっている。
きっと、音楽にとって進歩なんてそんなに重要なファクターじゃないんだろうな。
いや、まあ、ハードバップまで進化したんだから十分進歩してるか。
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