Josef SudekのPanoram Kodak

今回紹介する写真集は、優れた写真集の多くがそうであるように、残念ながら絶版となってしまっていて、手にれることすら大変になってしまっている。写真家の作品集としての写真集は、そもそも発行部数が少なく、重版もされない場合が多いので、どうしても入手が困難なものが多い。それは仕方がないことなのではあるけれど、探しても見つからなかったり、見つかってもプレミアがついていて高価で買えなかったりすることは、写真集という書物の悲しい運命である。

 

『Prague Panoramic』(英語版タイトル)に収められた約300点の写真はプラハの市街地、郊外の田園・庭園の風景をパノラマの画面の中に静かに封じ込めている。

 

このパノラマの風景を撮影したカメラは1900年頃にKodakが製造したNo.4 Panoram Kodakというカメラである。Sudekがこれらの写真を撮影したときには、既にこのパノラマカメラは過去の遺物として博物館に収められていたらしい。Sudekはそのカメラを博物館より借り出し、撮影に用いたと言われている。

 

Panoram Kodakは通常のカメラのようにシャッターで露光を調整するのではなく、レンズが回転することでスリットにより露光する珍しい構造となっている。そのため、撮影された写真の遠近感は歪むのだが、Sudekのパノラマ写真はその歪みを風景の中に取り込みながらも全体的な調和を保っている。パノラマという特別なフォーマットでありながら、パノラマ写真の枠内だけに留まらず、「緻密によく写し取られている」という写真表現の純粋な魅力を内包している。

 

もともとこのカメラはロールフィルムを用いるカメラなのだが、Sudekがこの作品を撮影したときには既にこのカメラに用いるロールフィルムは製造されていなかったらしい。そのため、彼はシートフィルムをこのカメラにあわせて切り、1カットずつ詰め替えて撮影したという。ただでさえ面倒なその作業を、片腕しかなかった彼が行ったことを考えると、この作品集の作成に費やされた彼の労力がどれほどのものだったか想像しただけでも気が遠くなる。写真作品の制作とは、そのように気の遠くなるような作業の積み重ねなのだ。

 

私もこの写真集に触発されて、Panoram Kodakを手に入れパノラマ写真を撮っているが、Sudekのパノラマ写真のように「パノラマであること」をあえて強調しない写真群を撮ることの難しさを痛感している。単純なレンズ構成のわりにピントがよく、良く写るが、やはり扱いづらいカメラである。

 

Sudekの他の写真作品としては、彼のアトリエの窓を撮影した作品群が素晴らしい。『Prague Panoramic』と共通する静かに見つめる視線を堪能できる作品群である。こちらは、すぐに手に入るので、手に入るうちに手に入れておきたい。